宮島達男≪MEGA DEATH≫

サントリーミュージアム天保山の「インシデンタル・アフェアーズ うつろいゆく日常性の美学」における、宮島達男氏の作品≪MEGA DEATH≫がおもしろかった。

http://www.suntory.co.jp/culture/smt/gallery/index.html
長さ25mにおよぶ壁面全体に1800個以上のデジタルカウンターが取り付けられており、暗い展示室に整然と並んで青い光を放っている。ひとつ一つが9から1へとカウントダウンして、消える。しばらくすると、また点灯し同じことを繰り返す。カウントダウンのスピードはまちまちで、せわしなく数を刻んであっという間に消えてしまうものもあれば、数字が一つ変わるのに数分かかるようなものもある。ろうそくの長さや太さを人の一生に象徴させるようなことはよくあるが、この場合数字で、しかもカウントダウンなので、終わりに迫る感が強い。暗い部屋いっぱいに明滅する青い光は、まるで星空のようで、いたるところで、無数の消灯が起こっている。本当にそうだ。自分の視界の内でも外でも、日々、人が死んでゆく。こうしている間にも、どこかでたれかが死んでいる。その事実が、次から次へと消えてゆくその数字をじっと見つめていると、如実に感じられてくる。見舞いに行った後でもあり、そのような事実の近くにいたので、自分の感じていることをより鮮明に掘り起こされたような思いだ。
無数の死すなわち他者の死を通して、自分の死を思う。カウンターの一つを自分と定める。数字が一つ減るごとに、胸が苦しくなる。9,8,7とたどり、来るべき1そして消滅をどきどきしながら待たされる。ところが、1どころか4を数えたところで、部屋中の電光が一度に全部消えた。真っ暗闇。世界大の、ひとつの大闇によって、無数の消滅はそもそも不可能事に帰す。そして、体が全く見えなくなるような暗がりがしばらく続く。
自己の死というものの疑似体験といってもいいほどに、よく仕組まれている。80歳が平均寿命といわれると勝手に80歳くらいまで生きるかのように思いこんでしまう。いつか先に死がおとづれる。人生の道の終点に死があると思いなして、その道を歩いていると、目の先の方に観念されていた死にたどりつかずに足元の落とし穴に落ちる。
自己の死という、世界を不可能にする闇は、壁に張り付いたカウンターの一つではなく、他者の死のように無数に眺められるようなものではなく、襲ってくる。そして呑み込む。唯一の大闇。本当によく考えられ、しかもシンプルに作り上げられていて、死の思索が感覚の先端におちてくる。臨場感をもって体認できる。そういう作品でした。