鎮魂雪

この雪に昨日はありし声音かな 前田普羅
カメムシを引き合いに出す大雪予想が今年しばしば聞かれたが、それほどでもない。ただ、夜のうちにひっそりと雪が降り、朝窓をあけてまばゆい驚きを経験するって日は、あった。
雪の日は、静かという音がする。それは叫ぶようなパンクのギターにも街の騒音にも消されることはない。
 話している者もいつか話さなくなる。声は、出なくなる。声が無くなった世界から、はじめて聞こえてくるものがある。喪ってはじめて、見えてくるものがある。
雪が世界を静かにするごとく、無声が魂を鎮める。
死者は私の心に生きているというのは卑俗な通念にすぎない。それでも、心が死者の国のごとき静かなる世界に浸されつつ浮いているがためであると気づくなら超俗に変わる。転換するから。転換すると、救われる。