死んで悪いか、いのちだろ

かぶとむしが蛹から孵って、土の中から黒く美事な角を顕わにする。と思うと、もう交尾をしている。何日かして、その黒い雄姿は土の上ではや動かなくなっている。たちどころに飼育ケースはかぶとむしの墓場になる。あっけないと言えばあっけない。虚しいといえばなんとも虚しい。蝉の生涯のはかなさはよく人の口に上がるものだが、地中での生活時間は違うけれど地上ですごすのは共にひととき。はかないけれど、否はかないからこそ、堂々たるものだ。生きる意味など探す余地のないほど確かだ。生命の仕事は何であるのか、まざまざと見せてくれる。そんなありようが、高村光太郎の言葉に端的だ。



  冬の言葉

冬が又来て天と地とを清楚にする。
冬が洗ひ出すのは万物の木地。

天はやつぱり高く遠く
樹木は思ひきつて潔らかだ。

虫は生殖を終へて平気で死に、
霜がおりれば草が枯れる。
(後略)