朝霧・彼岸花

きのうの朝、8時前に出勤のため外に出ると息子が水の粒が見えると言っている。空気中に見えるようなことをしきりに言う。ふーんと受け流して門を出ると、一面の朝霧。
霧はいい。いつもの世界が別天地になる。この世の様々に織りなされた、白々と見える脈絡を消してしまう。奥ゆかしい。視界の奥行きがなくなることで、世界の奥行きが広がる。逆かな。彼岸が白く迫ってきて、この世を狭めたのか。
彼岸花の赤が、真っ白の中に浮き出ている。もともとまっすぐな茎に真っ赤な花という姿は唐突なのだが、霧の中脈絡なく佇んでいる。幽明の境に火が灯るよう。
後ろで彼が「わかった、水の粒が集まって白くなってるんだ!」と言っている。その言葉のせいか、自転車を走らせながら、顔に小さな小さな水滴が当たるような感じがする。
一時間もすると、異界は見えなくなってしまった。あっけらかんとした青空と強い陽射し。雲一つない。ん? 去りゆく霧が雲を連れ立っていったのかしら。