妊婦とは、世界でいちばん大切な人

12月27日の出来事を以前に書きました。その時感じていたものと、同質のものをその数日後に感じました。詩です。(かの思いを触発したもう一つの文章はまたいづれ。)
下に上げる詩は(なんて言い回し)、同質のと言いましたが、それは歴史的な特殊性が強度な生起の仕方なので、それに私は打ちのめされるようでした。たまたつけた「紅白」の画面から、吉永小百合の口を通してその言葉は聞こえてきました。


生ましめんかな
  栗原貞子

こわれたビルディングの地下室の夜だった。
原子爆弾の負傷者たちは
ローソク1本ない暗い地下室を
うずめて、いっぱいだった。
生ぐさい血の匂い、死臭。
汗くさい人いきれ、うめきごえ
その中から不思議な声が聞こえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。
この地獄の底のような地下室で
今、若い女が産気づいているのだ。
 
マッチ1本ないくらがりで
どうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です。私が生ませましょう」
と言ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。
かくてくらがりの地獄の底で
新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。
生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも