兎の名

園ではうさぎを二羽飼っていて、園児が時折うさぎ小屋に入ってエサをあげたりして遊んでいます。この春卒園したお子さんのはなしですが、その子がうさぎの世話をしているのを見ていたら、うさぎの名を呼んでいるのです。園では名前を決めていなかったので、いわば名無しのうさぎだったのですから、その子が名前を付けていたわけです。
ぴょんちゃんとももちゃん。ぴょんちゃんは何でぴょんちゃんかというと、だっこしようとしてもすぐ跳んで逃げるからだそうです。なんてことのないような話ですが、こういうことの中に大切なことが含まれています。檻の外から動物を眺めていたんぢゃ決して得られない、触れることを通しての動物との関わり。そこには動物の温かさや、生物の筋肉の躍動などが感得されていますし、自分の思い通りにならないもの(これは自然の本質といえる)に触れてもいます。体験とはまさにこういうことです。
そして、名前をつける。体験が言葉になったような、いい名前です。これでうさぎがもはや、ただのそこにいるうさぎではなくなっている。うさぎとのとの距離感が変わっていて(三人称的関係から二人称的関係になったといえばいいのでしょうか)、呼びかけることのできる親しい関係に入っているわけで、うさぎとの心の交流がそこで起こっている。皮膚感覚を尖端にした接触点にのみ行き交うもの、うさぎと人の壁をとおり抜けて通じ合うものがある。彼女は卒園の時、ももちゃん、ぴょんちゃんとの別れを悲しんだことでしょう。