ミミズ先生

何をしにここに出てきて蚯蚓(ミミズ)死す 谷野予志
炎天下、アスファルトの道を横切ろうとして、途中でからからに干からびて死んでしまっているミミズを見ることがある。
道を渡り切れなかったミミズは一体この道を渡って何をしようとしたのか。何をしにここまで出てきたのか。とうていわかるはずもない。
しかし、この句をミミズのことだと思っていたら、おめでたい話である。かわいそうという上から目線の感情に酔える。
ミミズとは人間のことだ、いや私のことだ。何をしに、この世に来たのか。ミミズとは比べようもなく複雑な生活を営み、たくさんのことを知ってはいるが、この世に来たことの「意味」を知らなければ、死んでいくということの「意味」を知らないかぎりは、野たれ死んでいくミミズと同じである。
人間のみが死を思うことができる。その可能性を現実性にしないかぎり、宝の持ち腐れ。